義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
翌日金曜、私は予定通り退勤後に同期と食事に出かけた。
義兄と蘭奈さんのことが気にならないわけではなかったけれど、義兄は誘惑に負けるような人じゃない。
そもそも私とだって確たる未来の約束をしているわけではないのだ。私が気をもんでも仕方がない。

三人で入ったのは日比谷公園近くの洋食屋。
今日は林田くんが新しい契約を取れたお祝いをすることになっていた。ルートセールスばかりの我が社だけど、問い合わせから営業をかけ契約を結ぶことはある。運もあるけれど、入社一ヶ月半の彼には素晴らしい成果だった。
同期一番の成果は、ちょっとうらやましいくらい。私も頑張らなければと思う。

しかし、最初の乾杯を済ませ、メインが来る頃には林田くんは眠そうな表情。
最初から顔色はあまりよくはなかったけれど、お酒が想像以上に早くまわっている様子だ。
契約締結まで、かなり張り詰めて仕事をしていた彼だ。緊張が緩んでしまったのかもしれない。

なんとかメインは食べたものの、その後もおつまみとお酒で語り合おうという予定はちょっと厳しそうに見えた。
大丈夫と言い張る林田くんを私と狭山さんで押し切り、店を出た。

「私、タクシーで送っていくよ」

狭山さんが申し出てくれ、ふたりで林田くんをタクシーに押し込んだ。狭山さんと林田くんは最近本当にいい感じだし、下手にしゃしゃり出ないほうがいいかもしれない。タクシーを見送り、私も予想より早い帰途についた。

義兄のことが気にかかって、ついスマホを見る。なんの連絡もないのはいいことなのか悪いことなのか。いや、無用な心配はやめよう。
マンションに帰り着き、エントランスでぎくりと足を止めた。そこにいたのは雄太郎さんだ。
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