義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
「おかえり、ぼたんちゃん」

雄太郎さんが私を見て人懐っこい笑顔を見せた。私は不審に眉をひそめた。

「こんばんは、雄太郎さん」
「やだなあ。そんなに警戒しないで」

あからさまに身構えた態度を取ってしまった。でも、なぜ今夜尋ねてくるのかわからない。義兄と蘭奈さんが食事に行っていることは、彼も知っているはず。

「部屋でお茶でも、って誘ってくれないの?」
「ご用向きはなんですか?」

部屋になんて絶対に誘うものですか。そう思いながら口にはせず、なるべく冷静に尋ねる。すると、雄太郎さんが感じの悪い嘲笑めいた声音で言った。

「丞一とはできるのに、俺とはできない?」

下種の勘繰りとはこういうことだろうか。この人は、私と義兄が慎重に互いの関係を見つめなおしていることなど知らず、すでにずぶずぶの恋仲だと思っているのだろう。

「何を言ってるのかわかりません」
「今頃、丞一は蘭奈とホテルだよ。今夜は帰ってこない。ぼたんちゃんがさみしがってるだろうから、俺は心配でここに来たんだ」

その言葉にぞわりと背筋が冷えた。すぐに打ち消すように言い返す。

「義兄は蘭奈さんとはそういった関係にならないと言いました。断って帰ってくると」
「そんなのぼたんちゃんが証明できる? 丞一が浮気しないって言いきれるの?」
「私と……丞一さんはそういう関係じゃないです。……でも、丞一さんは約束を守る人だと思っています」
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