義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
「まあ、酔って部屋に入っちゃえば、本人だって証明できないよな。翌朝裸で目覚めて、女の方が楽しかったね、なんて言えばさ。それで既成事実完成」

義兄に限って酔いつぶれるまで飲むはずがない。ねだられたって、そんな失態は侵さない。だけど、どうしてこの人はこんなに自信満々なの?

「もしかして……兄に何か……」
「さあ、でも浮気した男をぼたんちゃんは許せる? 許せないなら、俺がじっくり慰めてあげるけど」

にやにや笑う雄太郎さんの顔で、私はこの人たちの腹積もりがわかった。これは勝利宣言にきたのだ。もしくは、義兄と蘭奈さんの仲を信じた私を我が物にするためかもしれない。
どちらにしろ、一刻の猶予もない。

私は踵を返しマンションのエントランスを飛び出した。
義兄は酔いつぶれたりはしない。だけど、睡眠薬か何かを盛られたとしたらどうだろう。
部屋に連れ込まれ、蘭奈さんと一泊すれば既成事実になる。叔母夫妻はそれを取り沙汰して言うだろう。嫁入り前の娘を傷物にした責任を取れ、と。

雄太郎さんはもう間に合わないと思っているのか私を追ってはこなかった。
タクシーで今夜義兄がいるはずのセレブレイト東京ベイホテルに向かう。部屋に入られてしまったら終わりだ。
間に合って、間に合って。
焦燥で胸が苦しい。

もし、義兄と蘭奈さんが同じ部屋で寝たとしても、私だけは信じる。
今夜が原因で義兄と蘭奈さんが結婚せざるを得なくなっても、私だけは義兄の愛を信じ続ける。

ああ、でも嫌。
天ケ瀬丞一が私以外の女性に触れるなんて嫌。妻にするなんて嫌だ。



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