雨上がりの景色を夢見て
「…後輩か…」

そう呟き直して、首にかけてあるタオルで顔を覆う。

少し、ほんの少し、自分の感情が揺れ動いていることに気がついている。

だけど、今ならまだ十分間に合う。自分の芽生えた感情に気が付かないふりをして、蓋をすることくらい簡単だ。

「…仕事、するかな」

まだ残っている仕事と向き合う決心をし、自分の部屋に向かった。

「あれ?仕事するの?」

まだ手のつけられていないお粥を持った夏奈が部屋にドアノブに手をかけた俺に話しかけた。

「うん。中川先生、食欲ないって?」

「ううん、また寝ちゃってて、起こすのもかわいそうだから寝かせておいた…」

「そっか」

そう言って、俺はまたドアノブに手をかけた。

「…雛ちゃん、また涙流してた…」

えっ…

夏奈の悲しそうな表情に、俺もつられて胸が痛んだ。

「…そうか」

「じゃあ、また後で」

夏奈の後ろ姿を見て、自分の部屋の扉を開ける。部屋に入ろうとしたけれど、一瞬足を止め、体の向きを変えた。

そして、夏奈の部屋…今は中川先生の寝ている部屋を見た。

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