雨上がりの景色を夢見て
寝ている中川先生を起こしてしまわないように、音を立てないように扉を開ける。

横向きにこちらに顔を向けて寝ている中川先生が、すぐに視界に入った。

すやすや眠る中川先生にそっと近づき、あまり近づき過ぎない位置の床にあぐらをかいて座った。

真っ白な綺麗な頬に涙の跡がついていて、長いまつ毛にはまだきらっと光涙がついている。

こんなに近くで、まじまじと中川先生の顔を見たのは初めてだ。

意外と、幼い顔してるんだな…。

こう見ると、10歳下の女の子なのだと実感する。

「…んっ…」

起きるか…?とドキッとした瞬間、中川先生の顔が、悲しげな表情に変わる。

「…っ…会いたいよ…」

背中で聞いた時と同じ言葉を呟いた中川先生
に、胸がギュッと握りつぶされたのかと思うくらい苦しくなった。

もとあった涙の跡を、もう一度大粒の涙がつたう。

この子は、一体今まで、どれだけの悲しみを心の中に押し込んでいたのだろう。

絶対触れないと決めていたのに、

自分で決めた境界線なのに、

無意識のうちに、つたった涙に手を伸ばしていた。

柔らかい肌の感触を指先に感じる。一瞬だけ触れて、すぐに手を離した。

えっ…

その瞬間、熱を帯びた彼女の手が俺の手に触れ、もう一度、今度は頬を包み込むように彼女の顔に触れた。

俺の鼓動が大きく波打つ。

ふわっと、悲しげだった中川先生の表情がやわらいだ。

きっと、目の前の彼女は夢を見ている。そう思ったのは、あまりにも幸せそうな表情だったから。


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