雨上がりの景色を夢見て
「ケーキ、俺が持っておくよ」

玄関の前に差し掛かると、高梨先生はそう言って私からケーキの箱を受け取る。

「たぶん、夏奈、凄い勢いで飛びついてくると思うから」

苦笑いの高梨先生に、私はちょっと大袈裟なんじゃないかと思ったけれど、小さく頷いた。

ガチャッ

高梨先生が扉を開ける。

「ただい「雛ちゃーん!」

先に足を踏み込んだ高梨先生の横を素通りして、凄い勢いで夏奈さんが抱きついてきた。

勢いに押されて、少し後ろに仰反る。咄嗟に高梨先生が手を背中に当ててくれて、なんとか体制を立て直した。

「ね、言った通り」

わたしにだけ聞こえる声で、呟いた高梨先生。やっぱり、夏奈さんの行動はお見通しなんだと、私は感心してしまった。

「夏奈、驚いてるから落ち着「雛ちゃん、こんな夏樹だけど、よろしくね!」

またしても、高梨先生の言葉を遮り、私の両手を握り締めて、前のめりで話す夏奈さん。

「いえ…こちらこそよろしくお願いします」

夏奈さんは、私の言葉に嬉しそうの微笑んで、私の手を握ったまま、リビングへと向かった。

「夏奈、はい、ケーキ。ちなみに選んだの俺じゃないから」

「雛ちゃん選んでくれたの?」

高梨先生からケーキの入った箱を受け取り、キラキラした目で私の方を見る夏奈さんが、とっても嬉しそうで、来てよかったと思えた。



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