雨上がりの景色を夢見て
ふっと優しく笑った仁さん。

「娘の恋人に、1度反対するっていうものに憧れもあったけど、私にはそんな勇気はないよ」

眉毛を下げて、穏やかにそう言った仁さんに、私の胸がとても温かくなった。

「雛ちゃん、素敵な人と巡り合ったんだね」

私を見つめて、優しく微笑む仁さんに、私はすぐに頷いた。

「高梨さん、雛ちゃんのこれからの人生を彩り豊かなものにすることを、約束して貰えますか?」

「はい。もちろんです」

テーブルの下で、私の手が高梨先生の手によって、ぎゅっと握られた。

手の温もりから、先生の覚悟が伝わってきて、私の心が満たされていく。

仁さんは、高梨先生を見ると、立ち上がり、写真たての方へ歩いて行った。引き出しから何かを取り出して、ゴソゴソしている。

すぐに戻ってきた仁さんは、また椅子に座って、私と高梨先生を交互に見た。

すーっと、私の前に出されたものは、私の名義の通帳と印鑑。

「仁さん…これって」

「雛ちゃんが、大学卒業するまでの間に、貯めていたものだよ。本当は就職決まったら渡そうかと思ったんだけど、絶対受け取るのを拒むから、もっと特別な人生の節目に渡そうって決めてたんだ」

「…気持ちは嬉しいけれど…菜子のために使って…」





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