雨上がりの景色を夢見て
すると、仁さんは、2枚の紙を通帳の上に並べた。

それは、父の日に、私が作った〝なんでもお願いできる券〟だった。

「これ、取って置いてたんだ…」

「今が、使う時」

そう言って笑った仁さんを見て、私は2枚の券を手に取って裏返した。

えっ…







〝世界一素敵な花嫁姿を見せてほしい〟


〝素直に祝福を受け入れて、幸せな人生を歩んでほしい〟








「仁さん…っ…」

嬉しくて、私の目がじわっと熱くなった。どんどん視界がぼやけてくる。

「…お父さんったら…っ…」

耳に届いた母の声も震えていた。

「私からの、最後の贅沢なお願いだよ」

仁さんの優しい声を聞いて、私の目から涙がこぼれ落ちた。

「お父さん…ありがとうございます」

隣の高梨先生が、深く頭を下げた。私も一緒に頭を下げる。

「…さっ、美味しそうなお寿司だ。ゆっくり食べてって。私は会社に戻るよ」

立ち上がって、ネクタイを締め直した仁さん。

「お昼は?」

「朝作ってもらったお弁当が、会社にあるから。戻ってからゆっくり食べるよ」

仁さんは高梨先生に深く頭を下げて、会社へと戻って行った。

「さあ、食べましょう」

私達は3人揃って手を合わせていただきますと言い、お寿司の器の蓋を開けた。



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