雨上がりの景色を夢見て
「じゃあ、泊まる準備しておきます。お迎えお願いしてもいいですか?」

「もちろん。18時に下で車止めて待ってるよ」

高梨先生は、ほっとした様子で穏やかに笑った。











自分の家に帰り、時計を見て時間を確認する。今は15時を過ぎたところ。

カバンの中から、仁さんから受け取った通帳と印鑑、そして券を2枚取り出した。そっと、通帳を開いて、1番最後の記帳の金額を目にした私は、一瞬心臓が止まりそうになった。

「こんなに…」

記帳の最初の日付を見ると、仁さんと母が結婚した年月から始まっていて、それから毎月、十分すぎるほどの金額が、大学を卒業する年の3月まで入金されていた。

共働きだったわけでもないし、まだ小さかった菜子もいて、決して余裕があったわけではないと思う。

それなのに、血のつながりの無い娘の将来のために、積み立てていてくれたことに心から驚く。

通帳を閉じようとした時ヒラッと一枚の紙が通帳の中から落ちた。

仁さんの字…?

書かれていた文字を見て、私の視界が涙でぼやける。

〝雛ちゃんへ

就職、おめでとう。社会人への第一歩、頑張れ。父親らしいことなんてできなかったけれど、少しでも雛ちゃんが帰ってきやすい家庭であり続けたいって思ってるよ。いつでも、「ただいま」って帰っておいで。
                父より〟

多分、仁さん自身もこの手紙の存在をすっかり忘れていたかもしれない。

当時の仁さんの気持ちが素直に伝わってきて、私は仁さんの人柄にとても温かみを感じた。

私は恵まれている。

とても幸せ者だ。

こんなにも優しくて、愛情に溢れた人達がすぐそばにいるのだから。

頬をつたう涙を拭いて、全て揃えて、引き出しの中にそっとしまった。


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