雨上がりの景色を夢見て
「たまに、ふと思う時があるんだ…。雛と一緒に歩んでいる現実が、本当は夢なんじゃないかって」

ぼーっとする頭で、私の前髪をかき分ける高梨先生を見る。

「こんなに、夢中になって人を好きになることがなかったし、夏奈の事があってから、もう恋愛はしないって思ってたから…」

高梨先生は、照れ臭そうにそう言うと、困ったように微笑んだ。

「夢から覚めた時に、雛がいなくなってたらどうしようって…。それくらい、今が幸せだってことなんだろうね」

そんなことを思っていたなんて、意外だった。

どう反応すれば良いか迷っていると、先生はそのまま言葉を続ける。

「俺もさ、雛がいて、子どもがいて、毎日笑いが絶えない幸せな時間を過ごしたい。だけど、辛い時は、素直に助けてって言える家庭にしたいって思ってるんだ…」

「夏樹さんらしい…」

私の言葉に、切なそうな表情をする高梨先生に、ドキッと心臓が跳ね上がる。

「じゃないと、雛、我慢するだろ?」

ふっと優しく笑って、私の顔を見る高梨先生。

「いつも、私のことばかり…」

「それはそうだよ。雛が幸せじゃないと、意味がない。辛い時も、幸せは感じて欲しいからね」

先生の言葉に、胸から熱いものが込み上げてくる。

「たまには、自分のことも、優先しないと…」

「自分のこと優先したから、今、雛がここにいる。最大の幸せは掴んでるから、もう充分自分の気持ちは貫き通したよ」


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