雨上がりの景色を夢見て
夏樹さんは、どうしてこんなに優しいのだろう。どうしたら、こんなにぶれないで、生きていけるのだろう。

こんな素敵な人と、この先の人生を共に出来ることが、私の中で、誇りに近い感情と変わる。

「…たまには、夏樹さんもわがまま言ってね?」

そう言うと、高梨先生は穏やかな表情で、一言だけ、

「うん」

と、答えた。

そして、ぎゅっと私を抱き寄せて、耳元で囁く。

「…愛してるよ」

先生の言葉に、一気に体温が上がり、先生の胸元の布をぎゅっと掴む。

「…そろそろ…寝よっか…」

眠そうな声が聞こえると、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきて、私も目を瞑ると、夢の中へと引き込まれて行った。











夢を見た。

大きな本屋さんで、受験対策の問題集や参考書を大量に買っていた時のこと。

貴史のこともあって、出遅れた受験対策。自分の進路を決めてから、やっと気持ちが固まって、動き始めた頃だ。

レジに並ぶ私は、後ろを通った人とぶつかり、抱えていた本を全部落としてしまった。

慌てて拾い上げる私に、

「これもですよね?」

と一冊の参考書を差し出してくれた、前に並んでいた1人の男性。

高梨…先生…?

夢だから、私の空想?でも、確かにこんなこともあったような…。

これが本当なら、私は先生に会ってる?

そこで夢は途切れ、私は現実の世界へと引き戻された。







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