雨上がりの景色を夢見て
病院で点滴の処置を受けて、雛がベットで寝ている様子を見守っていると、津川先生に呼ばれて、相談室のような場所へと移動した。

『…中川さんの事を少しお聞きしたくて』

と前置きした後、津川先生は、雛がただの貧血ではない可能性がある事、それは今後のことを考えると、早めに治療を始めた方がいい事を俺に説明した。

ただの貧血ではない…?

『他に、大きな病気が…?』

夏奈の時のことが頭をよぎり、俺の鼓動が急に早くなる。

『身体にではなく…心にです』

『えっ…心…ですか?』

『はい。今日、私は初めて会ったのですが、それでも、中川さんの不安になった時の表情が職業柄、すごく気になって…。あっ、私は、心療内科医です』

津川先生は、そう言って、俺に名刺を差し出した。

『早速、お伺いしたいのですが、中川さんは、何かトラウマになるような出来事をこれまで経験してますか?』

トラウマ…。

俺の中に、瞬時に2つのことが浮かび上がる。

『彼女は…幼少期に、父親の酒癖が原因で、物を投げつけられたり、夫婦喧嘩が終わるまで、暗い部屋に逃げ込んでいた経験があります。その影響で、今でも室内の暗闇が苦手です…。原因はつい最近まで忘れてたみたいですが…』

『…やはり、ありましたか…。他には…?』

津川先生は、テーブルの上で自分の両手を組んで、俺の言葉に耳を傾ける。

『…高校生の頃に、彼女自身も交通事故に遭っているのですが、その時に、かばってくれた恋人を失っています…。そのことは、ずっと彼女の心の中で、自分を責める出来事として残っていたようです』

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