雨上がりの景色を夢見て
俺の話に、先生は、表情を変えずに、頷いている。

その姿に、俺は、一瞬躊躇した話を付け加えた。

『この事は、本人には確認していないのですが…彼女は、亡くなった恋人のあとを追おうとしたようです』

その話しをした時に、津川先生の表情が、一瞬切なそうなものに変わった。

『…そんな壮絶な経験をして、あんな風に振る舞えていたのが驚きです』

『…ですよね。職場が同じなんですが、確かに、何か抱えているようには見えていたんですが、仕事も申し分ないくらい完璧にこなしてますし、事情を知った時は、よく1人で今まで耐えていたなって、正直驚きました』

俺の言葉に、津川先生は深く頷くと、少し間をおいて口を開いた。

『PTSDって言葉をご存知ですか?』

PTSD…?

『…なんとなくは。でも正確には知りません…』

津川先生は、手に持っていた資料の裏面に、わかりやすい言葉と図を使って説明してくれた。

PTSDは、命に関わる危険や強い恐怖心を抱いた時の事を断片的に思い出して、大きな不安に襲われてしまう病気だという事。一過性ではなくて、何度も繰り返し起きてしまい、その度に追い詰められてしまうとのことだった。

話を聞いていくと、雛の症状が当てはまっている事を突きつけられる。

『…治るんですか?』

彼女を苦しみから解放してあげたい。心の底からそう思った。

< 443 / 538 >

この作品をシェア

pagetop