雨上がりの景色を夢見て
『賢さん、雛を引き戻してくれてありがとうございました。…雛から聞きました。あの時、救ってもらえたから、俺は雛と出会えました』

俺の言葉に、賢さんは驚いていた。少しして、ふっと笑うと、

『そこまで話せてるなら、より安心したよ』

そう言って、ちょっとだけ目を潤ませていた。

『幸せにします』

俺は賢さんを真っ直ぐ見て、そう言い切る。

賢さんは俺の肩に手をポンっと置いて、厨房へと戻って行った。










そうだよな…。最近、幸せすぎて気にかけていなかったけれど、雛はずっと孤独の中にいたんだよな。

それが今、照れ臭そうに笑ったり、おもしろいことがあるとクスクスっと笑ったり。時にはちょっといじけたり。

コロコロ表情の変わる雛が目の前にいる。

車道に出て行こうとしたことを聞いて、雛を失っていたかもしれないという恐怖で不安になった昨晩。

もう大丈夫だと言い切った、真っ直ぐな雛の瞳。

どんな状況だとしても、雛が隣で生きていてくれるだけで、俺はきっと心が救われるのだと思う。

そう考えれば考えるほど、雛のことが愛おしい。

前方を見て運転していた俺は、視線を一瞬だけすやすや眠る雛に向けた。

ぎゅっと胸が締め付けられて、愛おしくなる。

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