パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 奥へどうぞと言われベンチソファに貴堂が座るとテーブルに花茶の入ったポットが置かれた。そして丁寧な手つきで紬希がお茶をいれてくれる。

 お茶と花の混じったような落ち着いた香りが部屋に溢れた。
「花茶か……」

「ええ。雪ちゃん……えと雪真さんが上海に行ったときに買ってきて下さったんです」
「そうか……花小路くん、よく来るの?」
「どうでしょう? 海外に行かれて何回かに1度って感じでしょうか」

 JSAの国際線勤務はたいてい月に2回から3回だから、1~2か月に一度は来ている、ということなのだろう。

「そう言えばこのお茶を用意した時にお兄ちゃんが選んだと言いなさいと言ったわ。どういうことなのかしら?」
 貴堂はお茶を吹きそうになった。

──紬希には悪気はない。けれど彼女を大事に思っている人がいることを肝に銘じておけと言われているような気がした。

 貴堂は軽くため息をついて、口を開く。
「大事にしますとお兄さんに伝えてくれる?」
「大事に?」
「それで伝わると思うから」
「はい」

 不思議そうな顔をしている紬希の頭を貴堂はポンポン、と撫でた。
「紬希は気にしなくていい」
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