パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 そう言って貴堂は紬希が用意してくれたお土産のお菓子の包装を外した。
「はい、あーん」
と紬希に差し出す。

 紬希はつい素直にお口を開けそうになり、はっ!とした。
「もう! 貴堂さんっ! 子供じゃないです」

「子供じゃないよ。恋人に食べさせるのはとても楽しい。二人きりだから出来ることなのだしね」
「じゃあもし私が貴堂さんにあーんってしたらどうします?」

「喜んで頂く。紬希くれるの?」
 仕返しのつもりで言ったのに余裕の表情で返されてしまう紬希だ。

 しかも貴堂はくすくすといたずらっぽく笑っている。
「なんだか貴堂さん、楽しそうです」
 紬希は首を傾げて聞いた。

 そういえば、先程から貴堂はとても楽しそうだ。
「楽しくて、幸せだよ。そしてくすぐったくもある。本当に、はしゃぎすぎだな」

 紬希は手元のお菓子を貴堂に差し出した。
「あーんです」
 とても真っ赤な顔だ。

 貴堂はその手を掴んだ。そして両手で包む。
 大きくて温かいその手に包まれただけで、紬希の鼓動が大きく跳ねた。
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