パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 椅子に座っている紬希の横に貴堂は座った。
 先程上海からの便で到着したところだ。
 到着が日中だったので、デッキで紬希と待ち合わせしたのだ。

「面白い?」
「はい。とてもお行儀よく並んで到着するので、すごいなぁっていつも思います」

「お行儀良いのは僕らだよ。パイロットって偉いとか思われがちだけど、実際は管制官に言われるがままなんだ。上がって、下がって、進入角度はこれで……って」

 眉を寄せる貴堂にくすくすと笑う紬希だ。
「けど、彼らがいてくれるお蔭であんな風にお行儀よく並んで着陸することができるんだから、感謝だよ。飛行機は絶対に一人では飛ばせないんだ」

「私も布を見て思うことがあります。ここに来るまでに何人の人の手を経て来たのかなって。そう思うと、大事に使うねって」

「そうか……」

 紬希は一人で作業しているように見えるけれど、彼女も一人ではなくて良かったと貴堂は感じる。
 そして、そんな胸の内を話してくれるようになったことを心から嬉しく思うのだ。

「そろそろ、行こうか」
 そう言った貴堂に紬希は、はい、と笑顔を向けた。
 二人がデッキから駐車場に移動する途中でのことだ。
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