パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 包み込まれるブランケットの中はもちろん温かいのだけれど、それだけではない貴堂の香りとかそういうのにまで包み込まれてしまうから。

「疲れていませんか?」
 腕の中から紬希は貴堂に尋ねた。
 だって、きっと今日は大変だったはずだ。

 貴堂はきゅっと紬希を抱きしめた。
「そうだね。とても緊張したよ。けど、一人のけが人もなく戻れたことを本当に嬉しく思うし、日々の訓練の成果を発揮できて良かったかな」
 貴堂にとってはある意味当然のように淡々としているのが、紬希は尊敬してしまうところなのだ。

「紬希、今日は空港まで一人で来たの?」
「はい」
「あんなことがあったのに」
 貴堂の言うあんなこと、とは立花紫とのことだろう。

「嫌な思いをさせてしまって、申し訳なかったね」
 紬希は首を横に振る。

「謝らないでください。私も自分を責めたんです。貴堂さんは悪くないのに、謝らせてしまったって」

──紬希……?

 声は相変わらず澄んだ鈴を転がしたような声なのに、落ち着いた雰囲気は以前とは違うように貴堂は感じた。
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