パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
「堂々としている彼女に対して、引け目を感じたんです」
「そんなの、感じなくていいのに」
「そうですね」

 そんな風に答える紬希はとても穏やかで、なのにゆるぎない。

「私には私のものがあるって、今まで思わなかったんです。けど、私にもちゃんと誇れるものがあるんだって教えてくれたのは、貴堂さんです」

 どんな表情でこんな話をしているのか、どうしても見たくなってしまった貴堂は、紬希の顎をそっととらえて、自分の方に向かせる。

「貴堂さん……?」
 茶色い髪、真っ白な肌。
 大きな琥珀のような瞳、儚げな風情なのは相変わらずなのに、真っ直ぐ貴堂を見つめる瞳は揺らぐことはない。

 こらえきれずに貴堂は紬希の唇に自分の唇を重ねた。
「どこまで好きにさせたら気が済むの?」
 そっと顔を離して紬希にそう尋ねる。

「え? あの、私は貴堂さんに感謝してて尊敬していて、大好きで信頼してるって言いたくて……」
「もう、黙って」

 儚げでも弱くはない。
 ものごとを真っ直ぐに澄んだ瞳で見つめることのできる人だ。
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