パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 まさか、そこで貴堂が見ているなんて思わなかったから。

 後日フライトが重なった際に指摘されて……おそらく自分は動揺が隠せていなかっただろうと思う。

 紬希はそれは綺麗だ。

 けれど見た目の綺麗さだけではなく、紬希はとても繊細で優しくて思いやりがある。
 いつもいつも人のことばかり気遣っているような子なのだ。

 その紬希を大事にしたい、と思う気持ちは兄のようなものだと雪真は思っている。

 雪真は紬希のことを大事にしたい。幸せになってほしい。
 それは間違いはないのだけれど。なんだかもやもやとするのだ。

 雪真はつい険しい顔で正面を見つめてしまっていたかもしれない。

「雪ちゃん?」
 さらさらとした紬希の声でハッとした雪真だ。紬希は不思議そうな顔で、雪真のことを覗き込んでいる。

「あ……うん、なんでもない。ちょっと考え事をしていた」

 雪真は紬希の自宅の前で車を停め、三嶋家の隣に建つ実家を見た。
 電気が消えているので両親は相変わらず忙しいんだろうということが分かる。
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