パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
「ありがとう、雪ちゃん。とてもおいしかった。寄っていく?」
「いや……今日は帰るよ」

 就職してからは通勤に便利なのでという理由で、空港にほど近いマンションで雪真は一人暮らしをしているのだ。

 それでも、三嶋兄妹には会いたくなってこんな風に来てしまう。
 実家よりも心のよりどころになっているのかも知れない場所だ。

「紬希……」
 雪真は助手席に座っている紬希に手を伸ばしかけ、途中でやめてぐっと拳を握り、その顔を覗き込む。

「ん?」
 紬希は雪真に向かって首を傾げた。

「今日……会った、上司の貴堂さんにシャツの話をした時に……」
「うん」

「着てみたいって言ったんだ」
「そうなの? お時間かかってもよければ、お作りするけれど」
 いつもなら紬希は絶対にこんな風に、すんなり了承はしないのに。

「いいの?」
「だって、雪ちゃんの上司の方なのだし、褒めてくださったから」
 紬希はとても嬉しそうだ。

 その表情を見たら、断ってもいいなんて雪真は言えなかった。


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