パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 乗務の間にも貴堂は折を見て現地を観光することもある。
 けれど、紬希は初めてなのだ。どこでも行きたいところに連れて行ってやりたい。

「水族館に行きたいです」
「美ら海水族館か。いいね」

「はい。あの、水族館は誠一郎さんと初めてデートした場所なので……こちらでも是非行ってみたくて。あと、月並みかもしれませんが白い砂浜と青い海が見たいです」

「どうしよう」
「え? どうしました!?」

「僕の彼女が可愛すぎて今すぐキスとかしたい。なのに僕は高速道路を運転中だ」

どうしようなんて言うから紬希は動揺してしまったのに、そんなことを貴堂が言うから。

「安全運転でお願いします」
紬希がそう言うと、あははっと貴堂から笑い声が聞こえた。

「じゃあ、安全運転で。お客様、当機はあと30分程で到着の予定です。現地の天気は晴れ、気温28度。たいへん快適な天気であると予想されます。どうぞ、良いご旅行を」

「機内アナウンスですね」
「そう。する時としない時があるけどね。今日は特別だったから」
 紬希の初めてのフライトは貴堂にとっては特別だ。
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