パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 フライトが終わった後に職員を連れて食事に行くことは、実はそれほど多くはない。

 みんなも仕事が終わってまで上司と同席したくはないだろうと思うし、ましてや機長ともなれば機内での責任者でもあり、そんな人と気を遣いながら食事するのでは嫌だろうと思うからだ。

 それでも一緒にいかがですか?と割とみんな律儀に誘ってくれるので、毎回断るのもどうなんだろうか、と3回に1回くらいは受けることにしていた。

 今日はたまたまその日で、そんな時は乗務員に店を選んでもらうようにしている。
 彼女たちは、美味しくていい店をたくさん知っているからだ。

 空港からは車で30分くらいのその店に、まさか花小路がいるとは思わなかったのだ。

「花小路さんじゃないかしら?」
 職員が目敏く見つけたのを感知して、先に中に入るよう貴堂は伝える。

 しかも受付で立ち話をしている最中に彼女が姿を現すなんて、本当に想像もしていなかったのだ。

 デッキで見た彼女だ。
 貴堂は一度見たものは忘れない。
 けれど、そういうこととは別に、彼女の姿は心に深く刻まれていた。

 長い髪を今日はふわふわと柔らかく巻いている。
 シフォン素材のふわりとしたブラウスもスカートも、可憐な彼女にとてもよく似合っていた。
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