パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 彼女は仕事なのだから、よこしまな気持ちを持ってはいけないと分かってはいるけれども、貴堂の目の前には彼女の白い首とか、柔らかそうな胸元があったりとかして、心を落ち着けるのに相当な忍耐力を要したのだった。

 紬希が時折シートにサイズを記入するために離れるのでその間に心を落ちつかせる貴堂だ。
 作業台でシートにチェックを入れながら、目を伏せていると、伏せたまつ毛が長いことに貴堂は気付いた。

 業務でも使うマインドフルネスをフル活用して、貴堂は気持ちを静める。
 そうして、ここはとても静かで居心地がいいことに気づいた。

「今日はお時間、大丈夫ですか?」
 その静かな空間に彼女の声が響く。
「休みなんです。それにここはなんだか静かでとてもいい……」

 木のぬくもりのある内装と、適度に雑多な雰囲気と古いミシン。紬希が静かに作業する音。
 貴堂は妙に気持ちが落ち着いてきて、あの花小路が懐くのも道理であるような気がした。

「ずっとここで作業されるんですか?」
「はい」
 それはとても綺麗な光景ではあったけれど、いつもチームで仕事をして、周りに人がいる事が途絶えない貴堂には、なんだか寂しいような気持ちもする。

「寂しくはない?」
 だから、そんな言葉が思わず口から漏れてしまった。背中の方を測っていたはずの紬希の動きがふと、止まる。
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