パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 貴堂は紬希の肘をそっと取って、椅子に座らせた。
 そして作業台の奥から自分も椅子を持ってきて、紬希の前に座る。
 そして、紬希に向かって首を傾げた。紬希はぼんやりとその様子を見ている。

「うん。聞かせてくれる?」
 また、こくり、と紬希は頷いた。

「その人に見られているような気がしていました。周りの人に言ってもなかなか分かってもらえなくて」

 挙句にそんなことを言い出すなんて『自意識過剰ではないか』と言い出す人がいたらしい。

 貴堂にしてみたら、本当にそいつは見ていたんだろう、と思う。
 おそらくはよこしまな想いを持って。

 自意識過剰なんて言い出したのは、きっとそいつなんじゃないかと推測した。

「そうしたら……怖くてっ……」
 紬希の指先が震えていた。

「紬希さん」
 思わず貴堂はその指を両手で掴んでしまう。
 紬希がびくんとした。

「……っ、すみません。大丈夫? 無理しないで」
 けれど、紬希はその手を引くことはなかった。そして握られた手をじっと見ている。

「私……触れられるのも無理なんです……」
「あ……失礼……」
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