パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
「紬希さん、苦手な食べ物はある?」
「ないです」
「エビとアボカドとローストビーフとサラダは平気?」

 ずいぶん具体的な質問だ。
「大好きです」
「よし、じゃあそれにしよう」

 車内のパネルに貴堂が手を触れると電話のコール音が聞こえた。
『はい。ル・ブランシェです』
「あ、貴堂です」

『貴堂様、いつもありがとうございます。ご予約ですか?』
「いや、テイクアウトをお願いしたくて。サンドウィッチを2人分、エビとロービーで。あと何かデザートはありますか?」

 タッチパネルから直接電話ができるようなのだが、通話中の声が車内に聞こえているのだ。
 オープンな貴堂には紬希は戸惑ってしまう。
 貴堂はそんなことも慣れた様子で会話の内容を聞かれることなど、全く気にしていないようだ。

『……そうですね、テイクアウトでしたら、エクレアではいかがでしょうか?』
「紬希さん、エクレアは食べれらる?」
 こくこくっ、と紬希は頷いている。一生懸命気配を消そうとしているのが可愛らしい。

「では、それで。あとコーヒーは飲めるかな?」
 また紬希はこくこく、頷いている。
 あまりの可愛らしさに、つい貴堂はポンポンと頭を撫でてしまった。
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