パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
「コーヒー2人分も」
『お連れ様がご一緒なんですね?』
 笑いを含んだ声に貴堂は心の中で余計なことは言うなよ?とつぶやく。

 電話に出ていたのは、ベテランの受付担当者だったので、さすがに何か余計なことを言うこともなく、何分後にご到着ですか?と尋ねてきた。

 20分後に……と打ち合わせをして電話を切った。

 ふふっ、と貴堂は笑い声を漏らす。
「大丈夫ですよ? 話しても」

「……なんか、失礼があってはいけないと思いまして」
「聞かれて困るような話はしないです。仕事でもないから多少の失礼があっても大丈夫ですよ」

 兄への挨拶でも、今の電話でも落ち着いていて、いつも自然体の貴堂が紬希には眩しく見えた。

「今のお店はね、本当はフレンチのお店なんですけど、サンドウィッチが美味しくて、たまにお願いするんですよ」
「そうなんですね」
 だから、お店の人とも慣れたやり取りだったのだろう。

「紬希さん、仮縫いもあると言っていましたよね?いつくらいがいいですか?」
「あ……1週間から10日くらいで」

 貴堂は少し考える風だった。
「後で勤務を確認します」
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