サクラ、咲く




大きな黒い塊は





「イッテェ」





人間・・・っ!?



不審者?強盗?殺人犯?



持っているビールの缶の側面がベコッと潰れるほど動揺して


荒くなる呼吸をどうにか落ち着かせながら


ジワリと後退する



リビングの窓まで1メートル
入ったらダッシュでインターホンの緊急ボタンを押して

玄関から外へ走り出る


塊から視線を外さないまま
頭の中でシュミレーションして


窓に近づいた瞬間


塊が立ち上がり


こちらを向いた


「・・・っ!」


「ヨォ」


不審者か強盗だと思った落下物は

スウェットの上下というラフな格好に裸足のトキだった


「・・・な、んで」


驚いているうちに間合いを詰めてきたトキは


私の頬に触れて

「泣いたのか」と眉を寄せた


いやいやいやいやいやいや


私が泣いてることなんて
この際どうでもいい


「なんでアンタが落ちてきたのか
ちゃんと説明しないと警察を呼ぶから」


こっちの方が今は重要だ


「チャイム鳴らしたけど出てこないから
コッチから入ることにした」


「・・・は?」


悪怯れる風もなく言ってのけるトキに
若干の苛立ちが沸いてくる


「やっぱ、警察に」


踵を返そうとした私の腕を「待て」と掴んだトキは


「俺ん家、この上」


更に爆弾発言をかましてきた


「は?」


「だから、落ちてきてもおかしくねぇだろ」


「いや、不法侵入だからね?」


「だからチャイム鳴らしたって」


「そんなの、バルコニーに居たから聞こえてない
てか、なんで私の所為みたいになってんのよ」


「不法侵入じゃなくて」


「なによ」


「会いたかった」


・・・っ、なんなのよ


見下ろしてくる漆黒の双眸に


さっきとは違う胸の苦しさが加わる




それは・・・




考えたくもないのに



トキが私に執着する意味を




知りたいって



責めているようにも思えた

























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