サクラ、咲く



「少し、いいか?」



バルコニーには前の住人の置き土産なのか、元々ソファが置かれている

掴まれたままの腕を引かれて
そこに腰を下ろした


「穴、あけたの?」


「いや、避難用口」


「・・・信じらんない」


緊急でもないのに
ポッカリと開いたそこは


確かに綺麗な四角だ



「本当に緊急でも、此処から落ちたら骨が折れるな」


落ちてきた癖に、そこを見上げながらそんなことを言うトキがおかしくて


「フフ」


笑いが込み上げてきた


「・・・んだよ、笑うな」


「高校生の癖にやることが大胆ね」


「ガキ扱いすんな」


「だってガキだもの」


どちらからともなく吹き出す


誰かと笑い合うなんて久しぶりで






少しだけ・・・ほんの少しだけ



今日、この場に現れてくれたトキに感謝したいと思った





・・・ねぇ、真大


全然、誰かに託されたくないけど

真大の優しい気持ち、伝わったよ?


7年の時を経て私の元へと届いたメッセージに


やっと向き合えた




「ねぇ、トキ」


「ん?」


「アンタ早く帰りなさいよ」


「あ゛?」


「七夕の夜に雨降らせるってどういうつもりよっ」


「俺の所為かよ」


「吃驚させたから、アンタの所為にする」


「そうかよ」


理不尽な責めにもトキは嫌な顔もせず
文句を言う私をどこか楽しげな顔で見ている


「ほら、驚き過ぎて缶まで凹んだんだからねっ」


側面が凹んだ缶を持ち上げて見せれば


「ほら、貸せよ」


長い腕が伸びてきて、取り上げられた


その上下を両手で挟んだトキは
そのままグシャと更にペタンコにした


「え、それ、どうやったの?」


「手で挟んだだけ」


「手の平が固いとか?」


「普通だ」


ほら、と見せてくれた手は
大きな男性の手で


思い出の中の真大の手とは全く違っていた







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