サクラ、咲く



せめてゴミだけでも持って帰ると言った私を鼻で笑った翔樹は


たった一階を送ってくれた


「送ってくれてありがと」


「あぁ、もう入れ」


門扉に寄りかかって見ている翔樹に
「おやすみ」を言って玄関扉の内へと入った


「フゥ」


なんで流されちゃうかな


お腹も満たされて気分良くなったお陰で
ジワリと眠気も襲ってきて


明日は自然に目が覚めるまで寝ると意気込んで

アラームを解除した携帯電話をカウンターに置いて


歯磨きを済ませるとベッドに沈んだ



・・・



ドンドン、ドンドンドン


耳に入ってくる嫌な音に
気付かないフリをしていたけれど

もう限界


「なんなの!」


イヤイヤ開けた目

渋々起こした身体


そこで聞こえてくるのは
さっきと同じ音で


どう考えても窓からだ


ベッドから下りると足音を立てずにそっと近付いた


厚みのあるカーテンを少し捲ってみる


「・・・っ、やっぱり」


レースのカーテン越しに見えたのは
バルコニーに立つ翔樹だった


意を決して両手でカーテンを開くと
翔樹の口元が緩んだ


「なによ」


私の口振りに気付いたのか
鍵を開けてくれとジェスチャーする翔樹


とりあえず「イヤ」と大きな口で断ってみると


両手を合わせてお願いしてきた


「ハァ、ウザい」


なんか絡み過ぎじゃない?

確かに昨日はご馳走になったけど
あれは翔樹がコンビニへ行かせてくれなかったからで

寝起きの姿を棚上げして憤慨している私の前で

両手を合わせたままの翔樹は
チラチラと視線を寄越してきて

やっぱりウザい


「モォォォォ」


どう見たって今回だって縄梯子じゃなくて落ちてきているから

中に入れなければ翔樹は干からびてしまうのだ


「ほんとムカつく」


観念して開けた窓から


「おはよ」


今度は靴を履いて落ちてきたらしい翔樹は

脱いだ靴を揃えて入ってきた


「なんなのよっ、アンタ」


「咲羅が起きねぇから」


「今日は自然に目が覚めるまで寝てるつもりだったの」


「そうか、知らなかったから悪りぃな」


どう見ても悪怯れる風もない翔樹は
勧めてもいないのにソファに座ると


「腹減った」と子犬みたいな目を向けてきた






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