サクラ、咲く



「どういう意味よ」


「朝飯、食わせてよ」


「無いわよ」


「・・・んでだよ」


「ここ最近買い物に行けてないし
昨日のコンビニも邪魔されたから
冷蔵庫の中は空っぽなの」


「そっか、そういうことか
じゃあ、出かけようぜ」


「・・・ハァ?」


「ほら、朝飯、朝飯」


「嫌よ、翔樹だけ行きなさいよ
アタシはまだ寝るんだからっ」


「んなこと言ってっと、老け込むぞ?
早く着替えて来いよ」


「嫌っ」


「じゃあ、俺と一緒に寝るか
一緒に朝飯食いに出るかどっちか選べ」


「・・・なによ、横暴」


「なんとでも言え」


「モォォォォ」



どっちも選ばないという選択肢も忘れて
一緒に出掛けることを選んだ私は


ビッグスクーターの後ろに乗せられて
行き先も知らないまま

どこかに連れ込まれてしまった


「・・・っ」


「行くぞ」


「ちょ、無理」


「もぉ引き返せねぇぞ」


「ハァ??」


えっと、神様、仏様
私、なにか悪いことしましたか?

見たこともない厳めしい建物を前に
込み上げてくる吐き気と闘っている


そんな私の気も知らずに
勝手に手を引いた翔樹を

見たこともない人種が整列して出迎えている


その一糸乱れぬお辞儀は圧巻で

じゃないわよっ!


「翔樹っ!」


「あ゛?」


「此処って」


「実家」


「帰るっ」


「やだね」


「なんで私に断りもなく勝手に連れ込んだりするのよっ」


「逆に断ったら来ねぇだろーが」


「当たり前じゃないっ」


「ガタガタ煩せぇこと言ってんなよ」


「何よっ、この、クソガキっ!!」


渾身の思いで吠えたことで
スッキリして我に返った瞬間


見えた景色に息を飲んだ


「「いらっしゃい」」


「ただいま」


「翔樹、おかえり」


混乱する私のことなんてお構いなしに
「ただいま」なんて言う翔樹も翔樹だけど

初対面で吠えている私に「いらっしゃい」を言うその人に


見覚えがあった





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