サクラ、咲く



・・・苦しい




簡単に触れてくる翔樹と


もう、触れられないところにいる真大


前を向くと決めた癖に
ずっと真大だけだった想いは根深くて


比べるつもりもないのに
ふとした瞬間に現れては胸を詰まらせる

その現実に唇を噛みしめた






ただ・・・


ソファの上で抱きしめられたままの
翔樹の腕の中は


思っているよりも温かくて居心地が良い


応えるつもりもないのなら
もっと強く拒否するべきなのに


翔樹に対する警戒感がない今は
それも有耶無耶に消えている


離れ難い気持ちを誤魔化すように肩口に顔を埋めてみると


背中に回っていた翔樹の腕がギュッと締まった


「咲羅」


「ん?」


「このまま、聞いてくれ」


「うん」


「昨日の写真な、橘の守衛だった」


「・・・っ」


え、どういうこと


橘病院では院内警備員は委託ではなく
保安課という部署を作って
直接人材を雇用していると聞いている

業務に見せかけて院内に入り込み撮影まで・・・

聞かされた事実に身体が震えだす


「院長にも伝えたが、身柄は白夜会《うち》が押さえた
もう二度と咲羅の前に姿を見せることもないが・・・」


「・・・?」


「理由を知りたけりゃ教える」


「・・・聞きたく、ない」


「そうか」


翔樹の低い声と、宥めるように背中でリズムを打つ大きな手に


恐怖心しかないはずの胸が救われていく


「咲羅、俺な・・・」


「ん?」


腕の中から少し顔を出してみる


翔樹の顎しか見えない状態から
抜け出そうと思えばできるのに


身体はそれを望まないらしくて


また翔樹の肩口に擦り寄った


だから、翔樹の“俺な”の続きを聞くことはなかった





・・・





「落ち着いたか」


「・・・うん」


どれくらいそうしていたのか
腕の中から解放されると消える温もりに不安な気持ちが持ち上がる


それと同時に込み上げてくるのは罪悪感で

俄に裏切り者の気分


「行くか」


「ん?」


「買い物、行くんだろ?」


「あ、うん」


負の感情を吹き飛ばすように起き上がると簡単に着替えを済ませた











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