サクラ、咲く


side 翔樹



そっとオデコに唇をつける


ただそれだけなのに


勇気が必要だった



また拒絶されたら・・・


あぁ、クソ
俺、カッコ悪りぃ



ソファに押し倒した俺が言うのもなんだが


咲羅はパチパチと長い睫毛が動いただけで
その身体に力が入ることはなかった


押さえつけた手首は
俺の指が余るほど細い


壊してしまう前にと


その華奢な身体を抱きしめた


この部屋も咲羅からも
甘くて良い匂いがする


俺の背中に回されることのない腕は
隔たりを作るように俺のシャツの胸辺りを掴んでいて庇護欲を唆る


高校生で止まっている咲羅の時間を
動かしてやりたい


闇に消えそうな瞳に
鮮やかな世界を魅せてやりたい


これまでは考えもしなかった
自分以外に心を傾けること



咲羅のために真っ直ぐ突き進むと決めたからには


なんとかしてやりてぇ



咲羅を心の底から笑わせるために


俺ができること・・・



女の喜びそうなことも
かけてやる言葉だって

硬派を貫いてきた俺には皆目見当もつかなくて

こんなことなら適当に遊んでいればよかったんだろうかと思ってはみても


思惑に溺れる女を相手にする気もなかったんだ


仕方がない



18歳の経験値の低さに項垂れながら


大人しく腕の中に抱かれている咲羅のことだけを考える


咲羅の7年を想うだけで


亡くなった相手への敵わない悔しさより
寄り添うことだけを意識する


温めるように


気持ちが伝わるように


ただ、咲羅を抱きしめる



シャツを掴んでいた手が緩んで
咲羅のオデコが肩口についた


その変化に


避けられない話をすることにした






side out










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