恋に落ちたら
「汚くないですよ。洗いたてですから使ってください」

「え?」

そう言ったかと思ったら目元だけでなく額の汗まで拭ってくれた。

「お姉さん、そこに美味しいかき氷屋さんがあるんですよ。奢りますから行きましょう。このままだと熱中症になりますよ」

そう言うと少し強引に私を連れ、路地を曲がった。
突然のことで私は断る隙も与えられず、あれよあれよとお店の前まで連れて行かれた。
昔ながらの趣のあるかき氷屋さんで、大きな木の木陰にベンチが置かれており、そこで食べるようだ。

「お姉さん何にする? 俺はいちごミルク」

呆気に取られまだ一言も発することができていないが、彼は気にする素振りも見せない。

「手作りのシロップだからどれも美味しいよ」

「じゃあ、私もいちごミルクにします」

「了解」

私をベンチに座らせ、彼は注文しに行ってくれた。
ふと気がつくと涙はおさまっていた。

「はい、お待たせ」

彼は私の手に大きな器に入ったかき氷を渡してくれると、自分はさっさと食べ始めた。
私もひと口、口に入れると甘くて冷たいものが喉をさっと通り抜ける。
鼻から抜けるイチゴの香りがなんとも言えず、とにかく美味しい。
泣きすぎと汗のかきすぎで本当に脱水だったのか、私はひたすら無言で食べていた。
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