独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
最近は雨が続いていたが今日は青天で日差しがきつい。
そんな中、視界の端に暑そうな長袖の作業着を着て忙しそうに働く人々が映った。
あそこは大分前に取り壊された古いビルの跡地だ。
新しいオフィスビルでも建つのだろうか。面積は小さいが好立地なので直ぐにテナントが埋まるだろう。
そんなことを考えながら駅に向かっている途中で、思いがけない人物に道を塞がれた。
「君は……」
「お話があります。私に神谷さんのお時間を頂けませんか?」
思い詰めた表情でそう告げたのは、舟木美帆だった。
晴臣は思わず眉根を寄せた。
彼女がここにいるのが偶然とは思えなかったからだ。
「忙しいところ申し訳ないとは思うのですが」
「……こういうのは困る。君の上司にも伝えたが、今後は個人的な連絡は控えて欲しい」
「それは上司から言われました。担当も変えられたので仕事でも神谷さんと顔を合わす機会はありません」
先方はどうやら深刻さを理解してくれたらしい。昨夜の連絡で既に行動しているとは、かなりのスピード感だ。
しかし彼女はどういうつもりでここにいるのだろうか。
(弁明でもしたいのか?)
元の担当に戻すよう、晴臣から働きかけて欲しいと考えているのか。
しかしそれはでは意味がない。
「申し訳ないが君の力になれない」
そう言い立ち去ろうとしたが、舟木美帆が強引に晴臣の前に立ちふさがる。
無理やり突き放すことは可能だが、女性に対して乱暴な真似をするのは良心が咎めた。
仕方なく立ち止まったものの、面倒だなと溜息が漏れる。