独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
那々は大層驚いた様子だった。

「仕事でトラブル発生って言ってたけど。詳しい内容はまだ聞いてない」

「あー……だったら仕方ないね。結婚記念日ってのがタイミング悪いけど、働いてるとよくあることだしね」

納得した様子で相槌を打った那々は、少し冷めたお茶をゆっくり飲んでいる。

晴臣に対する非難が少しも出て来ない様子なのは、彼女の価値観では記念日よりも仕事を優先するのが当たり前だからだろう。

(私だって普段はそう考えるけど……)

責任感を持って仕事に取り組む夫を尊敬している。そのような姿勢は好ましいし、自分も見習いたいと思っている。

それなのに昨夜はかなり落胆してしまった。

仕方ないと頭で分かっているけど、なかなか割り切れなくて、その憂鬱な気分を未だに引きずっている。

未だに晴臣からのフォローがないせいもある。

(初めての結婚記念日なんだから、せめてメッセージくらいくれてもいいのに)

例えば、結婚記念日おめでとうとか、これからもよろしく、とか。

甘い台詞が無理でも、もうちょっとだけでいいから気遣いとか優しさを見せて欲しかった。

それすらないのは、やはり愛されていないからだろうか。
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