独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
どういうつもりなのか問い質したいし、用意していたご馳走が無駄になったのが悲しいと伝えたいけれど実際は言えない。

(仕事に理解のない面倒な女だって思われるかもしれないもの。それは避けたい。でも……)

残っていたお茶を飲み干してテーブルに置いたとき、那々がじっと見ているのに気が付いた。

「どうしたの?」

「凹んでるなと思って。今夜お祝いして元気だしなよ」

「うん、そうだね」

「そう言えば、さっき結婚はスタートに過ぎないとか言ってたけど、あれは何だったの?」

「あ、大した意味はないよ。ちょっと感傷的になってただけ」

夫婦仲が上手くいっていなくて、早くもセックスレスとは彼女にも言えない。
レスは繊細な問題だし晴臣のプライバシーにかかわるから。

「それならいいけど。あ、そろそろ戻ろうか」

腕時計を確認した那々が席を立つ。瑠衣もその後に続いた。

オフィスに戻ったら悩みは一旦忘れて仕事に集中するように気持ちを切り替えた。

瑠衣が新卒で就職した白藤総合登記事務所には、司法書士と土地家屋調査士数人が在籍している。

社名通り登記申請とそれに関わる手続が主な仕事内容で、瑠衣は補助者として有資格者のサポート役を務めている。
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