愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「姫様。このまま二人で逃げてしまいませんか?」
「……え?」
「私のために、宝玉姫の座を()てては(いただ)けませんか?何か、とても(つら)いことがあったのでしょう?それで近頃、(ふさ)いでいらっしゃったのでしょう?そのような(つら)い場所に、戻らなくても良いではありませんか。それに……私も、もうこれ以上は待てません。どうか、宝玉姫を()めると(おっしゃ)っては(いただ)けませんか?」

 驚きに見開かれたシャーリィの目が、すぐに苦しげに伏せられる。
「……ごめんなさい。できないわ。私、決めたの。次の宝玉姫が生まれるまで、決して(みずか)ら宝玉姫の座を降りたりはしないと」

(だって、私にはもう、これしか無いもの。王女として、宝玉姫として、()り続けることでしか……お兄様のそばに、いられないもの)

 アーベントは、しばしの間沈黙(ちんもく)した。その後、低い声で答える。
「そうですか。残念です。……できることならば、命まで奪いたくはなかったのですが……」

「え……?」
 振り向いたシャーリィの目に、妙に(ゆが)んだ笑みを浮かべる男の顔が映る。
 その顔は、今までシャーリィに『共に死んでくれ』と(おそ)()かってきた男達の、狂気の表情に似ていた。
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