愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

 シャーリィは、反射的にアーベントを突き飛ばし、後ずさる。
 アーベントは無表情にそれを見つめながら、おもむろに剣を抜く。
 すると、それを合図にしたように、周りの木立や(しげ)みから武装した男達が飛び出して来た。

 逃げ場を()くし、シャーリィは蒼白な顔でアーベントを見つめる。
「真実を知りながら、それでもなお、宝玉姫の座に居座(いすわ)り続けるつもりですか?その血を(いつわ)り、正当な選定も受けずに宝玉姫の座に()いたあなたが」

「……どうして?」
 シャーリィは、ただ問うことしかできなかった。何故(なぜ)、アーベントがそのことを知っているのか。

「あの日、あなたの後をつけて、聞いてしまったのですよ。あなたが王太子殿下に告白していたところを。その内容も、あなたの出生についても、全て。……驚きましたよ。数多(あまた)の男達の心を(もてあそ)び、行き着く果てが、今まで兄と信じてきた男とは。趣味を疑いますね」

 あからさまな侮蔑(ぶべつ)を含んだ言葉に、シャーリィの頬が怒りと羞恥(しゅうち)(あか)く染まる。
 わざとシャーリィを傷つけようとするような彼の声音(こわね)には、シャーリィへの好意など微塵(みじん)も感じられなかった。

「……あなた、私のことを好きだと言ったわよね?」
 アーベントのこれまでの言動は何だったのか……シャーラの問いは、怒りと戸惑いに揺れていた。

自惚(うぬぼ)れないで(いただ)きたい。宝玉の魅力(ちから)の通用しない俺が、本気であなたのような小娘を好きになるとでも思っていたのですか?今までのは、全て演技ですよ。あなたを誘惑し、自発的に宝玉姫の座を降りて(いただ)くための」
 アーベントは哄笑(こうしょう)する。
「そうでもなければ、誰があなたのように、わがままで無責任で思慮(しりょ)も無い娘を……。まったく、同じ七公爵家の血を引いているなど、とても信じられない。お前など、セラフィニエの足元にも(およ)ばない」
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