愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「……降りない。あなたの事情がどうであれ、私にも理由がある。お兄様が、自らの想いを殺してまで守ろうとしているものを、私がこの手で(こわ)すことなんてできない。宝玉姫の座を降りるくらいなら、無謀(むぼう)だろうと何だろうと、戦う道を選ぶわ」
 言って、シャーリィは胸元から光の宝玉を取り出し、両手で(にぎ)()める。

「俺には低レベルな魅了の力など()かない。もし、それでも無理矢理(むりやり)俺の心を(あやつ)ろうと言うなら……その力の代償で、死ぬことになるぞ」
「そんなこと、やってみなければ分からない!使わなくても殺されるなら、同じことよ!」
 叫び、シャーリィは宝玉を(かま)える。

「光の宝玉よ!アーベント・クライトより我に敵対する意思を奪え!」
 宝玉から光が放たれる。だが、アーベントは(すず)しい顔で笑うばかりだった。

()かんな。俺の心はまだ、お前に対する敵意で(あふ)れている」
「光の宝玉よ!アーベントを止めて!」
 シャーリィは叫ぶ。だが、アーベントは止まらない。剣を手に、シャーリィに歩み寄って来る。

「光の宝玉よ!」
 シャーリィの声は、もはや悲鳴に近かった。
(このままじゃ、ダメ……もっと、もっと強い力を引き出さないと……もっと、もっと……)
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