愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

 その瞬間、景色が揺らいだ。まるでロウソクの火を吹き消したかのように、世界が再び闇に包まれる。
 その闇の中に、アーベントがいた。先ほど見た少年と同じ髪の色、同じ瞳で……。

「……やめろ。俺の中(・・・)に入って来るな」
 アーベントは、今までにない(おび)えた顔で、頭を(かか)え身を震わせている。
 シャーリィははっと気づいた。
(まさか……さっきの光景は、アーベントの記憶!? ここは、アーベントの精神世界なの?)

 愕然(がくぜん)として、自分の手元に目を(うつ)せば、宝玉から伸びる白金の光は何かの形をとっている。
 よくよく見れば、それはリボンなどという優しげな形でなかなった。
 それは――竜。長い白金の(からだ)を持つ竜が、アーベントの身に(から)みつき、その肉を()千切(ちぎ)ろうとしている。

「やめろ!奪うな!俺の心はセラフィニエのものだ!」
 アーベントが叫んだ直後、白金の竜が彼の肉を喰い千切った。
 その身から血が()き出し、辺り一面を染める。
 
 だが、その色は()ではなかった。カラフルな色の洪水(こうずい)……。
 それは、まるで光を(とも)すかのように、闇の世界に色をつける。宙に(あふ)れ出た、その血の色により、目の前に再び景色が描かれる――。
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