愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「ねぇ、お兄様。お兄様はいつから知っていたの?私が本当の妹じゃないことを……」
 ウィレスは躊躇(ためら)うように沈黙(ちんもく)し……だが、やがて重い口を開く。

「あれは、お前がまだ物心つくかつかぬかの(ころ)……。母上が、光の宝玉でミルトの心を(しば)る瞬間を、偶然(ぐうぜん)目撃してしまった時からだ」
 シャーリィの目が見開かれる。
 
「あの日、ミルトは暇乞(いとまご)いをしようとしていた。『どうしても、宮廷の空気に馴染(なじ)めず、(つら)い』と言って。だが、母上は許さなかった。口論(こうろん)が続いた末、ミルトは半狂乱になって叫んだ。『暇乞(いとまご)いが許されぬなら、母上と叔母上(おばうえ)が子を入れ替えたことを、父上に話す』と……」
 
 ウィレスはその日を思い出すように、遠い目で語り続ける。
 
「母上は、必死にミルトを(なだ)めようとした。だが、ミルトはますます興奮(こうふん)するばかりだった。そのうちに、とうとう母上が叫んだ。『お願いだから、私の言うことを聞いて』と……。その瞬間、白金の光が部屋を満たして……気づけば、ミルトはもう、今のような状態になっていた。あれが、意図的(いとてき)なことだったのか、ものの(はず)みだったのかは、私にも分からぬ。だが、母上はそれからずっと、苦しんでいらっしゃる。ミルトへの罪悪感と、秘密を守らねばならぬという心の狭間(はざま)で……」
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