愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
31 ウィレスの真実

 それまでずっと(かく)されてきた、彼の素顔の一部分が(あらわ)となる。
 その顔は、美と芸術の国リヒトシュライフェの王子にふさわしく、凛々(りり)しく整っていた。

「……何年ぶりかしら。お兄様のお顔を、ちゃんと見るのは。どうして隠してしまったの?」
 ウィレスは、その問いにも答えなかった。またしても、別の話を口にする。

「ずっと、真実を隠して生きていこうと思っていた。それが一番、お前のためだと……。たとえ、お前が真実に気づいたとしても……誤魔化(ごまか)して、(ふた)をしてしまえば、それで良いと思っていた。何があったとしても、私がお前を守れば、それで良いのだと。だが……それだけでは、()りないこともあるのだな」
 今回の件を言っているのだと、シャーリィには分かった。

「……そうね。今回より強力な敵が、現れないとも限らない。私、お兄様に守られているだけなんて、嫌だわ。私もちゃんと、戦えるようになりたい。そのためには、もっといろいろなことを、ちゃんと知っておかなければ駄目(だめ)なのだわ」

 シャーリィは、あまりにも知らな過ぎた。
 リヒトシュライフェの国境で起きていたことも、シュタイナー家の内情も、セラフィニエの(かか)えている事情も……。
 そもそも、自分の出生の秘密すら、ずっと長い間、知らずにいた。

「お前は、それで良いのか?幸福なだけの王女ではいられなくなるぞ。重過ぎる現実に、心が()えきれなくなることも、あるかも知れぬぞ」
「片恋姫の私に、元から幸福なだけの人生なんて存在しないわ」
 シャーリィはそう言い、切なく微笑む。
< 139 / 147 >

この作品をシェア

pagetop