愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

 その(さそ)いに、ウィレスは明らかに動揺(どうよう)し、迷っているように見えた。
 だが、理性が邪魔をするのか、なかなか動き出さない。
 シャーリィは()れたように、ウィレスの手を(にぎ)り、その手を(おのれ)の頬へと導いた。

「ねぇ、お願いよ。お兄様」
 上目遣(うわめづか)いに、じっと金色の瞳を見つめる。その表情と『おねだり』が、どれほどの効果を持っているのか、よく知った上での行動だった。
 
「……お前は、本当に……困った姫だ」
 盛大(せいだい)吐息(といき)とともに、(あきら)めたようにウィレスは(つぶや)く。

 その腕が、彼らしからぬ性急(せいきゅう)で強引な動きで、シャーリィの(こし)を抱く。
 引き寄せられ、抱き()められ、シャーリィは一瞬だけ(おどろ)いた後、すぐに自ら彼の胸に顔を(うず)めた。

「どきどきしているわね、お兄様」
 ウィレスの熱い胸が、確かな恋の証に強く脈打っているのを、シャーリィは幸福に、けれど同時に切なく味わう。

「……揶揄(からか)うな。それと……こんな時にまで、兄と呼ぶものではない」
 苦虫(にがむし)()(つぶ)したような、それでいて、どこか苦笑するような声に、シャーリィは顔を上げた。
 
 ウィレスは、ただひたむきにシャーリィを見つめていた。その瞳が、何よりも雄弁(ゆうべん)にシャーリィへの想いを語っている。
 
(確かに、これでは、誰かに知られてしまうかも知れないわね)
 
 シャーリィは心の中でこっそり笑う。そしてウィレスの前髪を()き上げ、隠されていたもう片方の目も(あらわ)にする。
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