愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「そうですか。難しいものですね。ルードルフも可哀想(かわいそう)に……。あの子は、生まれてからずっと、(まず)しい暮らししか知らないのですね。誰よりも高貴な血を引いているというのに……」

「リヒトシュライフェ七公爵家のうちの二家の血を引く人間なんて、他にいませんものね。でも、ルーディは貴族としての暮らしより、庶民の生活の方が(しょう)に合っているのかもしれませんよ。働いてお金を(かせ)ぐのが楽しいみたいで、いつも手紙に書いてきますもの。先月はいくら(もう)けただとか、こういう仕事を始めてみただとか、とても自慢(じまん)げに。叔母様方がお金を(かせ)ぐのには不向きでいらっしゃるから、今、実質的に家計を支えているのは、ルーディらしいんです」

「まぁ……十四の子どもが家計を支えるだなんて……そんな(ひど)い」
 たちまち顔を(くも)らせるイーリスに、シャーリィは(あわ)てて首を振る。

(ちが)うんです、お母様!ルーディは、成人男性の平均月収分くらいは、あの歳で軽く稼いでいるんですから!今では家族で雑貨屋を始めて、それなりに生活も落ち着いているようですし。それに、暮らしが本気で厳しくなったら、シュピーゲル家やシュベルター家に『おねだり』して支援をもらったり、あちこちで不用品や余り物をもらって再利用したり、すごくちゃっかりしてるんです!本当にしっかり者で、()け目も無くて、すごい子なんですから!」

 誤解を解こうと、立て板に水の勢いで並べ立てられるシャーリィの言葉に、イーリスは目を見開いた。

「まぁ……すごいのですね、ルードルフは。そんなにしっかり者なのでしたら、シュピーゲル・シュベルター両家の争いにも翻弄(ほんろう)されず、自分の思うままの未来を選べるかもしれませんね」

「もしかしたら、このままどちらの公爵家も継がずに、商人にでもなってしまうかもしれませんよ。ルーディのことですから」
「まぁ」
 イーリスは声を上げて笑った。が、その後、ふっと真顔になる。

「商人……、それもいいでしょう。七公爵家に(しば)られて生きるより、その方が、よほど幸せなのかもしれませんから」
 その言葉に、シャーリィはハッとする。
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