愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「私は、そんなに珍しい外見など、持っていないと思うのですけど……」
「とんでもない。その三日月を思わせる白金の髪と、真珠のように白い肌。それに珊瑚の海を思わせる、不思議な色の瞳。それは、あなたしか持ち得ない、類稀な美ですよ。大陸中旅しても、あなたほどの美貌の方にはお目にかかったことがない」
言葉だけ聞けば、熱心な口説き文句だが、レグルスに全くその気が無いことを、シャーリィは充分承知している。
レグルスは単に、どんな女性に対してもこんな調子というだけなのだ。
ミレイニの守護する宝玉は、他のあらゆる宝玉の効果を無効にする力を持つ。その宝玉守りの血統に生まれたレグルスは、光の宝玉の力が全く通じない数少ない人間の一人だった。
「まぁ、お上手ですこと。でも私、存じてますのよ?レグルス様は近頃、ティフォネミュアの双子の王女様にご執心でいらっしゃるとか」
誠意の無い口説き文句の仕返しに、からかうように言ってやると、レグルスは途端に困ったような顔になった。
「双子の王女様って……その言い方は、何だか誤解を招くなぁ。間違ってはいないんだろうけど……それだと、両方とも王女様みたいに聞こえる。片方は一応、れっきとした王子様なんだけど……」
「あら。姉姫様を守るために、男装して王位を継ごうとなさっている、健気な王女様なのでは?他ならぬあなたがバラッドで広められた話ではございませんの?」
「いや、あれは単に、その場限りの“おふざけ”として歌っただけで……まさか、こんなに広まってしまうとは……」
困り果てたように頭を掻くレグルスに、シャーリィはくすくすと笑い声を上げた。
「ところでお兄様は?相変わらず舞踏会には出席しないつもりなのかしら?」
「ああ、ウィレスね。あいつは……うん。出ないらしいよ。今日は」
どこか歯切れの悪いレグルスの言葉に、シャーリィはただ首を傾げた。