愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「あの……やはり、こういう場は私には合わないかと……。こんな格好も、不似合いですし……」

「何を言っている。とても良く似合っているじゃないか。素晴らしい着こなしだ。君は、身体の均整がとれているから、衣装が映えるのだなぁ。それに、仮面で多少隠れてはいるが、顔も相当に良いだろう?こんなご子息がリヒトシュライフェにいたとはねぇ。君、どこの家の子だい?」
 明るい声で問われ、ウィレスは愕然(がくぜん)とした。

(まさか、父上は分かっていないのか?目の前にいるのが実の息子だと。仮面で顔を隠しているとは言え……。レグルスの言う通り、俺はそんなにも変貌したと言うのか?)

「ははぁ。さては君、社交界デビューしたてだな?慣れない夜会に緊張しているのだろう?駄目だぞ、そんなことじゃ。ほら、男は度胸だ。どーんと行っておいで。おじさんがここで見ていてあげるから」
 無言でいると、勘違(かんちが)いしたルーカスが、会場へ向けぐいぐいとウィレスの背中を押しだした。

「あ、あの……すみません、あなたは……私が誰か、お分かりにならないのですか?」
 困惑したまま問うと、ルーカスは怪訝(けげん)そうに首を(かし)げてウィレスを見る。
「どこかで会ったことがあったかな?君」

(……本当に分からないのか。血の(つな)がった実の父にも分からないのだったら……大丈夫、だろうか)
 しばし悩んだ末、ウィレスは決意した。

 ウィレスが誰なのか当てようと、国内貴族の名前を順に並べ立てるルーカスを適当に誤魔化(ごまか)し、会場へ足を向ける。
 一生に一度のわがままを、自分に許すために……。
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