愛され聖女は片恋を厭う（宝玉九姫の生存遊戯１）

　時間が経(た)つのも忘れて喋(しゃべ)り続けるシャーリィの耳に、ふいに、柔らかく響く鐘の音が聞こえてきた。
　はっとして顔を上げると、王宮の時計塔は、もう十一時を告げている。

「あら、嫌だ。もうこんな時間？さすがに、こんなに長く会場を空(あ)けていてはまずいわ。もう戻りましょう。お……」

　もう『騙(だま)された振り』はお終(しま)いにしようと、振り返り、兄の名を呼ぼうとしたその刹那(せつな)――ふいに強い力で引き寄せられ、後ろから抱きすくめられた。

　抗うことも思いつけず、シャーリィはただ呆然としたまま、耳に吹き込まれる苦しげな囁(ささや)きを聞いた。

「……愛している」

　熱い吐息とともに、告げられたのは、ただ一言。
　だが、その意味を理解するのを、脳が拒否する。

「あの……何を仰(おっしゃ)ったの？今」
　いっそ聞き間違(まちが)いにしてしまいたくて、わざと明るい声で問う。
　だが、兄は真剣な声で繰(く)り返す。

「愛している。ずっと、前から。ずっと、お前だけを」
「……嘘(うそ)よね？」

　シャーリィは震(ふる)えながら、それでも無理矢理笑(え)みを作って振り向く。
　振り向けば、きっと兄は冗談だと言って笑ってくれる……そう信じて。

　だが、振り向いた先にあったものは、シャーリィのよく知る兄の顔ではなかった。