愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「まさか……」
「数時間後、次は王妃に子が生まれた。生まれた子は父親から銀の髪を、母親から紫の瞳を受け継いだ、美しい男の子だった」
 レグルスの語りを聞きながら、シャーリィは両親の容姿を頭に浮かべる。
 銀髪碧眼の父王、プラチナブロンドの髪に紫の瞳の母王妃……。

「生まれてきた子の性別を知り、王妃は目を疑った。時空(とき)の宝玉姫は、確かに女の子が生まれると予言したのに、と……。困惑しながら姉妹の方を見た彼女は、そこで初めて気づいた。姉妹の容姿は、今もなお鏡に映したように瓜二(うりふた)つ。時空(とき)の宝玉姫が夢にその姿を視て、王妃と間違えたとしても無理のないほどに。ましてや時空(とき)の宝玉姫は、予想だにしなかっただろう。出自こそ公爵令嬢とは言え、駆け落ちして一介(いっかい)の庶民となった娘が、王妃と同じ上質な衣装に身を包み、豪華な離宮の一室で出産を迎えることなど……」
 シャーリィは言葉も無く、強張(こわば)った顔で続きを聞く。

「だが、予言は既に国中に広まってしまった。祝福の声が大きかっただけに、誤りだったと知れれば、国民がどれほどの失望を抱くか知れたものではない。おまけに予言は、生まれて来る子が次代の宝玉姫だと明言してしまった。その次代の宝玉姫として生まれたのは、シュピーゲルとシュベルター二つの血を引く、だが今はどちらの家にも属さぬ――それどころか、貴族ですらない娘。いずれ、シュピーゲルとシュベルターがその娘の所属を争い内乱を巻き起こすのが目に見えるようだった。そして、もし内乱で国が割れるようなことがあれば、その(すき)を狙い戦を仕掛(しか)けてくるような国が、リヒトシュライフェの隣には確実に存在している。幸い、予想外の早産だったため、立ち会ったのは助産師一人。姉妹は話し合った末、決断した。生まれてきた子を取り替えることを……」
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