愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「やがて、王と王妃の間に王子が誕生(たんじょう)した。国民達は口では祝福したものの、ほんの少し気を落とした。男では宝玉姫にはなれない。王家には、宝玉姫にも女王にもなれる女子の誕生こそが望ましい」

「そんな……。お兄様は王族として、私なんかよりずっと立派なのに……」
「……それが、この大陸の諸国(しょこく)の現実だよ。宝玉姫の不在は、国家の存亡に関わる危機だからね」
 レグルスは自分のことをも振り返るように、苦く笑う。

「王妃が再び子を身籠(みごも)った時、国民は今度こそ王女に違いないと期待した。その期待は王妃に重圧となってのしかかり、恐怖にも近い不安をもたらした。今度の子も王子だったら、国民は自分に対し失望するのではないかと。そんな折、王妃と親交の深かった時空(とき)の宝玉姫が、未来を夢に()、その内容を手紙に書き送ってきた。近い将来、姉姫が次代の宝玉姫を産む、と。その内容はすぐに国中に広められ、国民はやがて訪れる王女の誕生に()き立った。王妃もやっと不安から逃れることができた」
 リヒトシュライフェの隣国のひとつフローレイン王国の『時空(とき)の宝玉』は、過去や未来の出来事を宝玉姫に夢で見せると言われている。
 ゆえに、時空(とき)の宝玉姫の『予知夢』は、的中率100%の予言として畏怖(いふ)されている。

「やがて、出産のために静かな田舎の離宮に移った王妃は、同じく出産を(ひか)えた姉妹を離宮に呼び寄せた。それまで彼女が貧しい暮らしをしているのを知りながら、助けることができずにいたから、せめて出産の前後くらいは生活の苦労を味わわせないようにしてあげたかったのだろう。そして、姉姫と妹姫は仲良く一緒に臨月を迎えた。最初に子を産んだのは、シュベルターの御曹司(おんぞうし)(とつ)いだ姫。生まれたのは母親に似た、それはそれは美しい女の子(・・・)だった」

「ちょっと待って。叔母様がお産みになったのは、男の子でしょう?」
 シャーリィは思わず口を(はさ)んでいた。レグルスは答えず、ただ弦をかき鳴らす。シャーリィははっと顔色を変えた。
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